美容院のような気軽さで歯科矯正が受けられる時代!?新興ブランドの実態を解説!
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美容院のような気軽さで歯科矯正が受けられる時代!?新興ブランドの実態を解説!
歯科矯正というと、これまでは100万円前後の出費を覚悟して、敷居の高い矯正歯科クリニックを訪問するというのが、一般的なイメージでした。治療期間も3年ほどと長く、おせじにも気軽に受けられる治療とは言えないのが、矯正治療の常識でした。
ところが最近は、そんな歯科矯正の市場が、様変わりしつつあります。アライナーを牽引するインビザライン社だけではなく、さまざまなアライナー矯正ブランドが新たに登場し、中には美容院のような気軽さで歯科矯正が受けられる新興ブランドもあり、各社しのぎを削って価格の安さや治療期間の短さをアピールしています。
その一方で、シェアNo.1のインビザラインは、依然として多くの歯科医師から指示され、着実にシェアを伸ばしつつあります。
はたしてマウスピースの新興ブランドは、老舗ブランドとどのような形で棲み分けをしているのでしょうか?変化しつつあるアライナーを利用した歯科矯正市場の実態を解説します。
男性ビジネスマンの患者が多い新興ブランド
世界のオーラルケア市場は年々成長を続けており、歯科矯正の世界も例外ではありません。アライナー矯正で不動の位置を占めるインビザラインの特許の一部が切れてからは、新興のアライナー矯正ブランドが、数多く台頭してきました。
その多くは低価格・短期間を謳っており、通院不要のケースも少なくありません。気になる部分だけをリーズナブルに矯正したい人や、軽度の歯並びの乱れを直したい人を対象としているブランドもあります。
あるアライナー矯正の新興ブランドからヒアリングしたところ、患者層は意外にも女性より男性の方が多く、ビジネスマンがよく利用しているとのこと。
たしかに男性の矯正治療希望者は、年々増える傾向にあります。グローバル化が進み、歯科矯正の意識が高い外国人と仕事をする機会が増えたこともあり、矯正治療に関心をもつ男性は増えてきました。
短期間・通院なしの矯正治療なら、気軽にトライできる
とはいえ、女性と比べてどうかというと、まだまだ男性の矯正患者は少ないのが現状です。厚生労働省の令和2年患者調査によると、歯科矯正の1日あたりの初診患者数は、女性が500人(平成29年)から2,400人(令和2年)に増えているのに対し、男性は300人(平成29年)から500人(令和2年)に増えたのみです。
出典:厚生労働省「令和2年(2020)患者調査」よりグラフを作成
令和2年の段階で、男性は女性の5分の1ほどの初診患者しかいません。そんな中で、新興ブランドの患者に男性が多いということは、これまで何らかの理由で矯正治療ができなかった男性が、新興ブランドで治療を始めた可能性も高いでしょう。
たとえば、これまで仕事が忙しくて通院できなかった男性も、いるかもしれません。ヒアリングをした新興ブランドは、短期間に通院なしで矯正治療ができるので、「それなら自分もできる」と思った可能性もあります。
通院なしといっても、初回だけは矯正治療に必要な3D歯型スキャンや、ドクターによる口腔内健診、レントゲン撮影などが必要になります。しかしそれ以降は、何もなければ通院の必要はありません。
例えば、自宅でアライナーを装着しながら、専属の医療チームによる24時間のLINEサポートが受け、励ましの言葉をもらいながら治療を続けることになります。アライナーの装着時間は、毎日LINEで報告することになっており、装着時間が短いと「どうしましたか?」とLINEを通してサポートが入る仕組みです。
アライナー矯正はワイヤー矯正と違って、自分の意思で器具を装着しなければなりません。その点が、患者さんが必要な装着時間を守らないなど、治療計画通りに進みにくい事があるというアライナー矯正のデメリットでもあります。そういう意味で、日々LINEのサポートが入るというのは、とても有難いシステムと言えるでしょう。
1?3ヶ月に1回通院し、そこでドクターとじっくり関わる従来型の矯正治療とは、治療スタイルがかなり違います。
新興メーカーの初診はスマホで気軽に予約し、サッと立ち寄ってパッと帰る
初診はスマホで気軽に予約し、サッと立ち寄ってパッと帰れる手軽さがあるのも、患者さんから見た新興メーカーの魅力のひとつです。
ヒアリングをした新興メーカーのクリニックは、都内の交通至便な場所にあります。スタイリッシュなお店が並ぶ界隈の一角にあり、クリニックに入ると、中はおしゃれな美容院のようなつくりになっています。
そのため、あの歯科クリニック特有の威圧感が、まったくありません。矯正治療に興味がない人でも、思わず入ってしまいたくなるほどの気軽さです。
従来の矯正歯科医院であれば、まずクリニックに一歩足を踏み入れるのにドキドキしてしまうところ、まったく気負わずに受診することができるのは、患者さんにとって大きなメリットといえます。
このように気軽に受診できる雰囲気づくりというのは、何事も短時間でスマートにこなしたい現代人の心を、しっかりとキャッチしているのかもしれません。
治療期間や治療費に関しても、新興メーカーは従来の矯正治療に比べて、かなりハードルが低くなっています。
治療期間は基本的に3?6ヶ月、金額も30万円台前半なので、今まで治療期間の長さや金額がネックで歯科矯正に踏み切れなかった人も、気軽に治療にトライできるでしょう。
あくまで軽度の歯並びの乱れに対応した矯正治療
ただし、このように気軽にできる矯正治療が、難しい症例にも対応できるかというと、そういうわけではありません。
ヒアリングをした新興メーカーは、気になる部分だけを矯正したいなど、軽度の歯並びの乱れに特化しています。あらかじめ対応できる症例をネット上にアップし、それを見て「自分は治療できそうだ」と思った患者さんから、連絡が入るようになっています。
そのため、初診に訪れる患者さんの多くは治療に進むことができ、無駄足を踏むこともありません。経営側としても、診察のロスを少なくすることができます。
通院なしの矯正治療には賛否両論ある
こうした矯正治療が増えたことに対して、ドクターの方々はどう思っているのでしょうか?若いドクターの中には、新しい矯正治療のやり方に共感し、積極的に取り入れている人もいるようです。
「費用が高い」「期間が長い」といった患者側から見た今までの矯正治療の難点をクリアした新興ブランドは、色々な意味で日本の矯正界に一石を投じていると言っていいでしょう。
その一方で、「LINEによるサポートのみで通院のない診療の仕方に対して問題がある。」と苦言を呈するドクターがいることも事実です。
特に、歯科医師として長いキャリアをもったドクターの中には、「通院しないで矯正治療ができるはずがない」といった指摘も多くあります。
アライナーそのものに対する信頼や実績も、新興ブランドの場合はまだ明確に築かれていません。
ある矯正歯科の専門医は、「インビザライン以外のメーカーは、まだ患者さんの矯正治療に活用できるレベルまで達していない」と、苦言を呈します。
実際、インビザラインは世界100ヶ国以上、1400万人以上(2022年9月時点)の患者さんを治療した実績があり、難しい症例にも対応できる信頼度の高いアライナーメーカーです。患者さんとしても、お金と時間さえあれば、インビザラインを希望する人は多いでしょう。
ターゲットを棲み分けることで、 集患率をアップ
しかし、現実には多忙を極めるビジネスマンや、費用の問題で矯正治療に踏み切れない人も数多くいます。その受け皿となれるのが新興メーカーであり、今後も矯正治療の患者数の増加に寄与してくれるに違いありません。
従来の矯正治療と同じ捉え方ではなく、「前歯2本だけちょっと下げたい」「お金はないけれど、少しだけ歯並びを変えたい」といったように、患者さんの「サクッと歯並びを治したい」時代ニーズにピッタリ合っていることも事実です。
もちろん矯正治療という側面においては、新興メーカーはまだまだこれからかもしれません。しかし、患者さん目線でのクリニックづくりや、予約方法 来院方法など、既存の歯科医院が集患のために取り入れるべき要素は少なからずあります。
歯科クリニックとしても、新しいクリニックのあり方や、システムを見極めた上で、それを慎重に取り入れることによって、集患と臨床の両輪をうまく回せる可能性があるのではないでしょうか。
コラム:伊藤樹理
<プロフィール>
ライター歴26年。企業や医療施設、教育施設の記事を中心に執筆活動をしている。歯科をメインに150ヶ所以上の病院・クリニックを取材し、地域医療のあり方や医師・医療スタッフの働き方とキャリアを模索中。国家資格キャリアコンサルタント。